飛ぶ男/安部公房
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前回が安部公房最後の長編だったなら、今回は、死後フロッピーから見つかった、安部氏の絶筆作品である。 だからして小説は途中で終わっている。 しかもどう考えても、冒頭しかない。 主人公、保根オサムは、夜、弟と名乗る男から電話を受ける。 しかし保根に弟はおらず、電話に誘われるまま窓の外を見ると、男が空を飛んでいた。 それが電話の相手、弟だ、というわけである。 弟は超能力者で、見世物としてひと儲けしようと企む父から逃げ、保根へ助けを求めに来ていた。 さなか狙撃され、弟は保根の部屋へ緊急着陸する。 話も途中で怪我を手当てし、弟は窓からまた空を飛んで帰ってゆくのだが、代わりに隣の部屋から、弟めあてに女は乗り込んでくる。 そう、彼女こそが弟を狙撃した犯人だった。 一目でその姿に惚れた女は、撃って、くたびれているところ介抱し、モノにしようと企んでいたのだ。 ……ァア、ヨイヨイ。 続きがない。 同時収録の短編、『さまざまな父』は、弟と父のやり取りを書いた『飛ぶ男』の下敷きになっている小説だ。 N.riverが学生の時、お世話になった先生は安部公房が専門だった。 N.riverがちくちく、何かを書いているのを冷やかして、続き書いてみたら? などとおっしゃった方である。 だがいまだ『さまざまな父』を引っ張り出しても、どんなに陳腐だろうと何ひとつ、N.riverの頭には浮かんでこない。 没年が1993年の安部氏は、数年前からこれを書き始めていた。 時代にテーマを探すならつまり、1980年代、中頃から後半が妥当ではないのかと思われる。 思い返せば後に続く異様な事件の数々と、それまでの乱痴気騒ぎのようなバブル期、世間はこれまでにない空気に包まれていたはずだ。 それを安部氏がどう解釈し、どこへ焦点を当てていたのか。 (ググったらば、クレオール※に興味を持たれていたさなか、とか) だからといって超能力と見世物小屋が、重要なキーワード、何かのたとえと考えてしまうのは、 安直、過ぎるだろうな。 なにしろN.riverのオツムは安物なので、う回路という多様性が装備されていないのである。 全てはもう分からない。 安部氏らしい幕引きだ、と思えてならないN.riverなのであった。 ★『飛ぶ男』の後半、 物語の推移が箇条書きのように 記されているあたり 安部氏の創作過程を生々しく感じ取ることができます ここから細部を増やしてゆくのだろうな などと想像すると面白いかも (安部氏の推敲はそら、細かいことで有名) 未完ですので期待はできませんが ファンなら押さえて損はない一冊です ※クレオール=新造語、新成言語。通じない言語を話す者同士が作り上げた、第三の言語。 |