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長いお別れ/レイモンド・チャンドラー


この時、フィリップ・マーロウは42歳。
私立探偵をやっている。
始めてすでに6作目の今回だ。
N.riverは情動派で、大人になっても計画性が薄い。
つまりタイトルが著明だから知っていた
というだけで、いきなり6作目から手をつけるヤツである。

しかしだからといって、何ら支障のない内容。
漂うノワールは、なるほど、いくらも量産されてきた私立探偵ものの原型であることを、知らしめる。
来ない依頼人。来ても、てんで陳腐な依頼をよこし、そんな事務所は窓枠に死んだ虫の死骸が転がるすさみ加減。ただその見てくれ通り金に困っているのかと問えば、時にデカイヤマが舞い込んでくる。
なぜならマーロウという男を見込んで、惜しまぬ何某が現れるからだ。それほどまでマーロウは、己の立場に対して、考え方に対して、今風に言えば「ぶれない」人物である、らしい。それが体勢側、強いては法と対峙するにあたっても、だ。

しかし、マーロウという人物像に見せつけるだけのハデさはない。
普通の、ただちょっと多数決に飲まれない、
扱いにくいおっちゃんというだけである。
全体から滲み出す、その一枚岩たる風体がセクシーでもあるわけだけど、
あくまでも地味だ。

理解するまでにおおよそ、半分以上を読み進めていた。
話は紆余曲折し、マーロウの日常が淡々と続くようで、
本筋がみえてくるまでにもそれほどかかる。
いや、N.riverの頭の回転数がそれくらいのピッチだからか。
しかし過ぎて全体像が見え始めると、前半の余分と思えた部分が無駄なくかみあいだし、
加速的に引き込まれる。
この伏線の忍ばせ方こそ、ミステリー賞をもらうだけの綿密さだと感じた。

立ち回りらしい立ち回りがあるのは、最後の一瞬、だけ。

しかしやり方がキタナイじゃないか。
そら、まだマーロウはポリさんに「さようなら」の言い方が見つからないハズだと思う。
なぜなら、顔を合わせても出会っちゃいない相手だからだね。
それほどまでに心へ刻みこまれた相手へ、
真に「さようなら」を告げるまでの、これは長い物語である。

だけどもだよ、出てくるレディがこうも美女揃いは、ズルい。
そこが作り物のオハナシ、として唯一、顕著に夢あふれる部分か。
N.riverもホレてヨレる、魅力の持ち主そろいだ。

そしてすこぶる引っかかる登場人物は、ロジャーという小説家についてである。
ロジャーの発言はどこか、作者が自身を卑下しているのかとダブらせずにはおれない皮肉に満ちている。
漱石も『坊ちゃん』で漱石自身を赤シャツに投影していたように、チャンドラーもそうだとすれば。
マーロウはだからして主人公でいられるのだろう。

などとつまみ食いするに、図書館は至便。
同じく今年の始め、亡くなられて初めて存在を知るに至った知の巨匠、吉本隆明氏の著書もまた、図書館で借りて読んだうちの一つである。
ということで次回、まとめて何冊かをここで。


★殴ったり撃ったりという、ハデさはほとんどないけれど
 本気でマーロウが仕事を続ける気があるなら、それは当然のこと
 オマワリに睨まれながら、ときに小間使いがごとく
 しかしプライドは捨てない
 頼りになるあんちゃん、がお好きな方向けです
 最後、あっと驚くオチにも、驚いたあと腑に落ちる辺り
 ミステリーとしてのシカケも抜群だね