職業としての小説家/村上春樹
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著名作家のいわばハウツー本、第二弾として挙げるなら、これだろう。 世界的な文脈で物語を紡げる作家、ハルキムラカミの仕事場がのぞける本書は、 きらびやかさより堅実さでうちたてられていたように思う。 恋をしなければ恋愛ものは書けないのか。 それも熱烈かつ、ドラマチックな。 破天荒な生き方をしなければ、傑作は生まれないのか。 それも芸の肥しとして。 書かれたものと書いた人物は等号で結ばれがちだが、どうやらそうとも言いきれないらしい。 あのカフカが執筆していた期間はおよそ10年。 しかもその間、きっちり郵便局員として毎日おつとめに出ていたことを、本書で初めて知った。 かく語る村上さんも、毎日規則正しい健康な生活を送ることに専念している。 それも全て「書くため」の準備として。 単発でドカン、情熱のままに書き連ねることはおそらく誰でも可能だ。 しかし職業として続けるならば、そうはいかない。 限られた人生から拾い集められるネタは限られているし、 同じテンションを機械的に紡ぎだし続けることも、人間だからこそ難しい。 つまりプロはそこが違うと、本書は見せつける。 虎視眈々と着実に。 おっちょこちょいでは務まらない。 冷静な視点と行動こそが誰にも真似できない、プロの最初の技なのではないかと思わされた一冊だった。 |