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2017年 第5回文フリ大阪
配布本 感想一覧


● 『鍵が見つかりません お月様』 /土佐岡マキ (眠る樹海堂) ●
失くすと探すは対だが、どちらもすでに何かが欠けている状態だ、という点では同じように感じられてならない。
両を担って失せものに四苦八苦する主人公は、だからしてどこか欠けたような具合が魅力の天然さんだ。そんな主人公には、この物語のもう一人の登場人物、補って共に四苦八苦してくれるしっかり者のパートナーがついている。つまり見どころは、失せものがどこから出てくるか、ではなく、そんな2人のやり取りの方にあったり。
たとえ口が悪かろうと、欠けたところを補ってくれるのは優しさゆえ。
そして誰しも完璧でないなら、そんな二人のやり取りが見どころのこの作品は、ほんわか甘さが失せ物なんて出てこなければいいのに、とさえ思わせる心地よさに満ちている。だからして伝わってくるのは欠けていることの素敵だったなら、ミステリーというよりもこれはもう癒し系ラブロマンスだ、とうなずきながら読んだ。
足りないへ不満を漏らすのでなく愛でる。そんなことを過らせてくれた物語と読む。


● 『The Brain Battler's Bible』
/伊織、河村塔王、シ、白河紫苑、すぎはら、藤木一帆 ●

二年の歳月をかけたリレー小説。しかもゴリゴリの電脳SF。よくもまぁ、迷走するでもなく、行き詰まるでもなく、ラストが結べたものだなぁと思わずにはおれない。
さて、世には「架空読書会」という、存在しない本のタイトルをお題として投げ、それに対して想像を巡らせ、皆がさも読んだ風に感想を述べ合いながら物語を浮き上がらせてゆくゲームがある。
架空読書会はあくまで読者視点だが、本書を読みながらこれはその作者バーションぽいなと感じた。
続くリレーの中で各著者は、これまでの状況整理、新たな展開の足掛かりを織り込み、待機する次の書き手へ差し出している。受け取った書き手はまたそれを同様に仕込み、次へと。確かに、あれはどうなった? な箇所もあるよな気がするが、細かい所を追及するなんてヤボだろう。それ以上、次第に焦点が合い始める過程がたまらないのだ。
果たして何話完結、主人公は誰等、前提として詰めていた項目があったのかどうか分からないが、この息の合った、そして息詰まる、作家さん同士のやり取りが本編以上にたまらない物語と読む。


● 『異世界冒険譚 ユースティオ』  ( 歯車は止まらない
/桜庭ごがつ、阪淳志、馬の丞さち、小説書き123456、ぷよつー ●

分担して書く、という意味では「The Brain Battler's Bible」が直列つなぎなら、こちらは並列つなぎとでもいうべきか。
主人公は作者達そのもの。オフ会のはずが異世界へバラバラに飛ばされた作者たちは、再会するまで自身の物語を紡いでゆく。
各話、そんな作家のクセがふんだんに出ていて、登場人物の個性がリアルと際立つ。当然だけれどこの辺り、1人で書いていてはこうも顕著に出はしない。その差がなんとも新鮮。再び集まり「END」をつづるまでの間、伝わってくるのはだからしてあーでもない、こーでもない、と紙面上、ワイワイやっている楽しげな雰囲気だったり。
誰もが主役でグロさゼロ。友情と冒険のこの物語は、やはりオハナシを読み始めた頃の気安く健全なノリを思い出させてくれる。
ちなみに、和を乱すことを恐れず公言すれば、遠慮気味ながら、はっきりしてもいる馬コ嬢が妙にお気に入りの物語。


● 『ヨンコと四個のビン』 /らし( tumblr.) ●
そもそも本の形をしていない。箱だ。
中にはタイトル通り、豆本入りの四個の小瓶が詰め込まれていた。
トリセツかと思われた薄いパンフレットから読み始めると、指令が書かれている。読者はページをめくるのではなく、瓶を開けながら物語を読み進めろ、というわけである。
物語は夢いっぱいのSFファンタジーである。箱にある赤いタコさんの意味も分かる。けれどそれ以上に思い馳せるのは、読むという行為についてだ。ページをめくる代わりに開けなければいけない瓶は、横へ横へ簡単にスライドして(進んで)ゆく通常の読書に対し、かかる手間が物語の核心へぐいぐい深く潜り込んでゆく感覚をダイナミックかつダイレクトに味あわせてくれる。
最後の最後、結末へ辿り着くには物語をただ享受するのみならず、積極的にかかわらねばらならぬ必要性も出てくるわけだし。このあたり、もう気分は自分が主人公になったかのよう。無論、読破した後はインテリアにもってこい。
まさに読書を「体感」できる作品と読む。


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