たまご の巻
22


 ミノオの住まいは日暮れまで燃えていた。
 炎が消え、近づくことができるほどまで冷めたのは、翌朝のことだ。
 杭ひとつ残っていない焼け跡を前に、下の子供らはただただきょとんとしていた。ミノオだけがその中へ、雲太と連れ立ち入ってゆく。
 土座は、掘り下げた住まいの一部へ土を積んで作られたもので、すっかり真っ黒と焦げていた。だがその上に並んだ父の骨だけは真っ白で、雲太とミノオの目を刺し続ける。
 雲太はまたミノオが泣き出すだろうかと、気がかりでならなかった。幾度も様子をうかがい見たが、焼けた骨はあまりに綺麗で父の面影などどこにも残しておらず、前において屈みこんだだミノオはそれを、ただ亀の卵と同じに衣の裾へ拾い上げただけだった。
 そうしてまだ温かいそれを、畑の隅に納めて石を積む。
 供える物は何もなかった。だからして飾られたのは、下の子供らが摘んできたいくらかの花だけだ。まったくもって簡素なものだった。その分、皆で一生懸命、手を合わせることにする。葬らず哀れな姿を長らく晒させた罪を詫び、魂が無事、産土神に連れられて死の穢れを祓えるよう、心から祈ることにした。
「見てみろ」
 終えて雲太は子供らへ促す。もう飽きた下の子供らは父の埋まった周りを駆け回っていたが、ミノオだけが合わせていた手から顔を上げた。
「どうだ? こうしてようよう弔えば、いつもと違って見えるだろう」
 言われるままにミノオは、荒れて龍に毟られた畑へ、山へ、空へ、目を凝らしてゆく。何が違うのだろうと探して回った。その横顔へ、雲太は教える。
「こうして皆で祈ったからして、お前の父はようやく産土神に連れられると、魂の穢れを祓えたぞ。祓ってこの地に鎮まる立派な神となられた。だからして、そら、その山にも田畑にも川にも、生えておる草木の全てにも、空にも、お前の吸っておる空気にも、全部だ、全部にお前の父は、母と共に宿っておるぞ」
 ミノオはただ目を丸くして、見慣れたはずの村を眺めていた。
「そうしていつまでも、お前たちを見守っておる」
 雲太はその背をぼん、と叩いてやる。勢いにミノオは前へつんのめり、立ち止まってもう一度、右から左を、上から下までを、見回していった。最後、胸いっぱいに空気を吸い込んだなら、味わうように止めてゆるゆる、吐き出してゆく。名残りにその目を瞬かせた。雲太へと、いや、己へと、こくり、頷いてみせる。
「うん。おった。おとうも、おかあも、おった。おいらに、きらきら手を振った」
 最後、雲太を仰いでみせた。雲太はその顔へうなずき返し、言ったとおりだろう、と笑ってやる。 


 果たして龍を退治することはできたが、ミノオらは住まいをなくしていた。
 ゴキブリは焼いて田畑に埋め、同じようにイナゴも焼いて田畑を元へ戻したが、大人たちはまだもう一匹の龍が残っていると言って子供らを預かろうとはしなかった。そして因果の謎は鳩と共に山へ消え去り、雲太らが穀の季節までここに止まり続けることこそできはしない。ゆえに雲太らはミノオ兄弟を引き連れると、昼を前に村をあとにすることにしていた。
 別れぎわ大人たちが分け与えたのは、獅子の塩が振られた焼きイナゴの大きな包だ。京三は心底、嫌がったので、道すがらもっぱら子供らがポリポリ食って腹の足しにした。
 そんな子供らの行き先は、もう決まっている。それは雲太が京三と相談している間のことだ。大人たちは先に手を回し、山賊の子になれとミノオへ吹き込んでいた。従い、雲太へ言い出したのはミノオ自身だ。
 預かれないのは同じなのだから、バカなことを言うものではない、と叱ることができない。だからといってそれがいい、と雲太は笑えずにもいた。ただ夕暮れ前、後ろめたさにとりつかれたまま、おずおずと山へ入っていった。

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