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ACTion 62 『Cybird Dive』



 ゲートへ向かい飛び込む。
 異物と攻撃して、スプリット、分散していたイージーたちの幾らかは、すぐにも焼き捨てられていた。だとしてイージーたちに恐怖という感覚こそ備わっていなかったなら、埋め込まれた任務のみ、完遂させるべく突き進む。
 前へ、さらなるゲートは連なった。
 通り抜けるとするなら力技のみと、減速することなくイージーたちはくぐり抜けて行く。その度に、うわ面だけのカムフラージュを識別して、粘って伸びるゴム膜のように検閲プログラムはイージーたちへ張り付いた。辛うじて認識されたところで突き破れば、わずかながらも聞こえてきた声が大きさを増していることを認識する。果たしてそれは通信機越しか、直接の音声入力か。少しでも情報を構築しておきたいと分析を始めるが、声だという事は認識できても、言語すら判別できない。
 だからこそひと塊となり、イージーたちは速度を上げた。
 気づけば、そんな同胞も数えるほどに減っている。
 かまわず新たに現れた検閲の障壁を、ロックした。
 突入すればその開口部はトラップと、認識していたより狭い。
 くぐり切れなかった同胞たちが、ぶち当たると火花をボウ、と上げていた。
 一個体、残されて、イージーはそんな同胞たちへ振り返る。
 見送るほかなく、足元から伸びる糸を確認した。
 そこからたった一本、糸は伸びると、中継基地とつなぐラインとして伸びている。だが十分だ、などと言えはしない。スプリットした同胞のフォローが得られなくなったのだ。交換できる情報のない今、周囲すら把握困難となり、状況は穴蔵をめくらめっぽうに飛んでいるかのような不安定さに見舞われる。
 補うべくして、臨界間際の高速稼動へスイッチした。
 刹那、開ける。いや、フォローなき情報解析の重さに焼け切れそうなほどと加熱していた糸が、そこでふいと軽くなった。つまり声の元へ、集音装置のコネクターにたどり着いたのかと、イージーは検証を始める。だがそぐわず、ただ闇雲と飛ぶ目の前に、これまで経てきた情報塊以上、分厚く重いものが待ち受けていることだけを察知する。
 だというのに、そこに隔てて浮かぶゲートや障壁こそなかった。
 めり込むようにやんわりと、だ。
 イージーは、中へ侵入してゆく。
 とたん声は一気にクリアとなっていた。
 同時に不明だった言語の理由さえ、明らかとなる。ひとりやふたりでなかったのだ。それは群衆だ。コマンドなどと受け取る事のできない、野次に罵声に歓声の数々だった。
 収拾してリアルタイムでレポートすべく、糸がイージーの足元で再びの過熱を始める。その温度上昇はこれまでになく、続けば切れるのではないかと危ぶんだ。だが引き返すという選択肢こそなく、そして進むほどに音声もまた、その発信位置を明らかとしてゆく。
 と、ついに糸は焼き切れていた。
 イージーの足元で火花が飛び散る。
 切れた糸は、中を流れていた情報を、火花と飛び散らせる。様子はまるで血飛沫を上げているようだったなら、ままに燃え尽きながら辺りへ情報をジウ、と染みこませていった。
 それは基地と分離されたイージーの足元でも繰り返されると、ジリリ焼け焦げる気配が這い上がってくるのをイージーは察知する。その熱が「溶ける」と断定するに十分なほどだったなら、追いつかれる前にだった。求めて、彼方より発せられる声をイージーは見据える。
 そこで群衆の野次と歓声は、今や環境音らしき金属のぶつかり合う音さえ混じらせていた。それら音声を収集する装置の据え置かれた風景すら、距離感をもって克明に再現できるほどの臨場感さえある。
 ただし切れた糸に、それが基地へレポートされているかは定かでない。
 それでも糸を失うことで軽くなったその身をイージーは、加速させた。確かめるべきモノはそこにあると、目を見張る。
 情報は、そんなイージーの前で距離を詰めるほどに膨大となっていった。
 襲いかかるほどと膨れ上がったなら、飲み込めず、処理能力は臨界を越える。
 食えぬほどの食物を口いっぱい、詰め込まれたかのごとくだった。抱えてなおも突き進めば、溢れだす情報にイージーの体はやがて裂け始める。裂けたそこからかつて引いていた糸のように、火花を吹き上げた。垂れ流しながら血潮に代えて、周囲へと染みこませてゆく。
 ままに体は崩れゆく。
 それきり惰性が、イージーを流れ星に変えていた。
 燃え尽きながらもイージーが検知したのは、声の響きが空気の振動である、ということだ。
 そうしてそこに、初めて集音装置をロックしていた。
 飛び込めば、探していたものの正体は明らかとなるハズだった。
 だからこそ尽きるその前に、と体当たる。
 衝撃。
 音はない。
 閃光だけが小さく吹き上がっていた。
 吹き上がった閃光は噴水のように優雅な弧を描くと、キラキラ散って集音装置へ染み込んでゆく。
 その跡形さえ消え失せていた。
 瞬間だ。
 糸が脈打つ。焼き切れ、周囲へ溶け込んだそこで、かつての光を放つと再び繋がりだしていた。ままに、イージーの破片まで伸びると、砕け散ったイージーさえつなぎなおしてゆく。息を吹き返した、という表現が陳腐だと言うことは承知していても、まさにそれはそんな光景だった。
 だとしてそれはもう、かつてのイージーではない。検索を再開させてフル稼働を始めたとたん、そんなイージーを中心に、周囲へ光の網は広がってゆく。溶け込んだ糸をコネクターに、今や検索対象だった全に取り入ると、停電から普及した街がごとく光りの網を周囲へ広げていった。
 そのいたる場所から情報を吸い上げられると、手付かずだった領域さえいともたやすく掌握してゆく。巨大がゆえに迷宮だった全体像は、一手に引き受けた中継基地で霧が晴れるかのごとく全貌を明らかとしてゆき、そこに電網地図は一気呵成と、詳細なまでに編み上げられてゆく。
 その全体図は、実にユニークで巨大だった。
 そう、それは「見つけた」のではなかったのだ。
 イージーが潜り込んだ巨大な情報塊こそ、捜し求めていた父そのものだった。生体情報の一部としてイルサリから託されていた父の脳内マップ断片、そのコピーに構築されゆく電網地図がヒットすれば、イージーは間違いなく父と言う生体そのものにコネクトしているのだと、結論を弾き出す。
 このレポートは、即座に中継基地でまとめ上げられていた。狭い回廊を最速でくぐりぬけるべく、そこに圧縮加工もまた施される。
 あいだも、生命と言う名の活動、その情報の更新に明け暮れる父の膨大な情報は、絶えず中継基地へ流し込まれ、燃え尽きたイージーよろしく中継基地をパンク寸前へ追いこんでいた。回避して中継基地は、溜め込むために閉鎖していたそこを、イージーの飛び去った方向へ解放する。流れ込む情報を循環させることで、生体管理プログラムの一部に組み入った。
 同時にこれを最後の使命とし、船で待つイルサリへレポートを打ち上げる。

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