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半島を出よ/村上龍


何事もそうであるが、
書物もまた読んでみなければ、面白かどうかなんて分からない。
だが読む前に、勘という形で働く基準があることは確かである。
それは、CDを購入する時にも働きはしないだろうか。
装丁、というやつである。
 
本書『半島を出よ』が上下巻で平積みされているのを目の当たりにした時、
N.riverはどうしてもその『本』が欲しくなった。
それも読むことを決めた、根拠のひとつである。
この装丁というガクブチは、詳細へふれる前のイメージ拡充に大いに役立っていると思う。
装丁師、たる方がおられるのかどうかわからないが、スゴイ仕事だなぁ、と
話は横道にそれつつも、感心するばかりなのだった。


ということで、本題。
何と今、裏表紙を見ると第一版を購入している。
もう7年前のことである。(当時)
一度読んだきりで、どこまで書けるのかいささか不安ではあるが、
毎回そんな具合なので、ここでもひとつ印象に残ったところを中心に挙げておきたいと思う。

さて、この話がただの絵空事に思えず、物語の中へぐいぐいと引っ張り込まれる理由のひとつには、
北朝鮮の軍隊がテロリストとして攻めてくる、という大胆不敵ながら、時節柄あながち嘘とは思えない設定以外、
リアルなシミュレーションストーリーだ、というとこにあると思える。

そのための取材、調査は膨大だったに違いない。
だからして、あり得る範囲で進む物語は、ひたすら緻密で飛躍がなかった。
おかげで嘘とマコトの境界線は曖昧となり、いつしかあり得ない、
と思われた物語の中へ危機感伴い引き込まれてゆく。

福岡ドーム制圧シーン。封鎖されてゆく福岡市に、有事に対する日本中枢の対応。封鎖された福岡市内の様子や、 有事を打開すべく各方面で動く登場人物ら。
もしかしたら全ては明日にも起きることで、登場人物はそれこそ今、福岡にいるのではないのだろうか、と思えてくるのだから、ただごとではない。

ハイライトとして最後、福岡ドーム近くの某ホテルが倒壊するシーンがあるのだが、
これがまた圧巻で、好物を前にN.riverのよだれはもう、バケツ一杯も。
見たこともない景色だというのに、確かにビルがぶっ倒れるのを見たような気になるのだから、恐れおののき文字の神様へ、鎮まり給えと供物を差し出す始末である。
そして前作『インザ・ミソスープ』同様、それらをしたためた村上氏の気迫に、
もし目が合うことがあったなら絶対に逸らそう、と決意するのであった。

ファンタジーや異世界、パラレルワールド、ともかくここではない別世界を描く時、
登場人物の周りを異世界と組み立てることは、当然の仕事であり、それが書き手の面白み、挑戦になることと察する。
だがそうした狭い範囲でさえ説得力をもたせるためには、
その何倍もの質と量で、書き手が世界を構築し、把握していなければならないのだと、感じた。
そしてそれこそが重要だ、と改めて教えられたように感じ、
実際を成果と共に見せつけられたような作品だとも受け取った。
嘘は、支える土台が肝心。
その土台が圧倒的な『半島を出よ』は、
だからこそ重要なんだよ安全保障、として記憶に残った『半島を出よ』でもあった。


★軍事シュミレートものが好物な方は  必読かと思われます
 舞台となった福岡市民の方も
 リアルな地理に臨場感を覚えるのではないかと感じます
 7年経った今、読んで
 当時と今の 某国との関係を比較してみるのも面白いかもしれません