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パプリカ/筒井康隆


前回の『解体屋外伝』のごとく
SF、実験的、といえば巨匠、筒井康隆氏を外すことはできないのではなかろうか。
サイバー、脳、ときて、心理にも興味を持っていたあの頃、
ちょうど出会ったのが、
後にアニメ化もされることとなった『パプリカ』である。

パプリカはキュートでスマートな夢探偵だ。
心身症を患っている患者の夢へダイブし、夢から心を治療する。
しかしそれは裏の顔で、
表はノーベル賞を受賞するや否やの、美貌の最先端臨床心理士でもある。
この「最先端」、というところがSF要素で、
頭に装着すると夢が映像化されて録画できたり、
患者と医師がそれを装着することで患者の夢をのぞけるどころか、
互いの夢への出入りが可能となってしまうスグレモノ装置が、
登場するのである。

これら機器をめぐってパプリカと、
その表の顔である臨床心理士として勤める研究所内、ライバルたちとの
壮絶な攻防戦は始まるのだ。

読んでいて圧倒されたのは、一見デタラメなようで
しっかりした裏付けの元に書かれた夢の数々である。
(むしろカウンセリングは、ご本人の体験からきているのではないか、
としか思えてならない)
成立させるための筒井氏の予備知識の深さ。
荒唐無稽のようで、だからこそどこまでも広がって破綻しない
底なしの想像力。
眠ると敵が夢に現れ、悪夢にうなされる消耗戦は、
読んでいるうちにどこからが夢で、どこからが現実か、
果たして目が覚めたそこは本当に現実なのか、
はたまた夢の中の夢なのか、
見分けのつかなくなってゆく混沌さがすさまじい。
それは氏が書いている時、その恐ろしさに一夜にして白髪になった
と、どこかで聞いた記憶があるほどだ。

もちろん過去取りあげた『脳と仮想』を持ち出せば、
夢も、覚醒時に認識しているこの現実も、
脳内へ立ち上げられた同等の『仮想』に過ぎない。
だからこそ混濁する。
その紙一重をスリルと楽しめる『パプリカ』は、
数多くの魅力的なキャラクターと、
アイロニーに満ちた筒井節が炸裂する壮大な、
夢ゆえの欲望と、悪夢とも呼べる荒廃にまみれた、
壮大なSFファンタジーとして楽しめる一冊なのである。 

しかし勢いあまってアニメも見たが、やはり小説には勝てなかったなぁ。


★カウンセリングに興味がある方なら
 ずいぶん楽しめる設定だと思います
 抜きにしても、夢に寛大な精神があれば
 なんでもこい! で共に冒険できるはず
 男性の方なら、あれやらこれやら、
 パプリカの魅力がなおさら増すのでは
 と思われます
 個人的には続編が読みたい