小娘のミッドナイト/桑原穣太郎
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『ボクの~』の前後に、桑原氏の作品を立て続けに読んでいる。 今は一冊も手元にないけれど、 それでも遠い昔の恋人みたくよかったなぁ、 などとこうして思い出すのだから、だいぶ中毒だ。 本書の主人公もまた、今ではすうっかり足を洗ったヤクザ者である。 名前をジョニー大倉は、 (このネーミングのわざとらしさが、またたまらん) 年頃の娘を持つ、小さな喫茶店の大人しいマスターだ。 ありきたりなホームドラマよろしく、日々をつつがなく過ごしている。 んが、 過去は恨みはらさんとジョニーの前に現れた。 ヤクザであったことを秘密に暮らしてきた娘を守りつつ、 過去とケリをつけるべくして奔走するジョニー。 そんなジョニーを慕うこれまたいい女も現れて、 なぜにジョニーなのかといえば、爺婆のいずれかがが米国人のクオーターだからで、 ゆえに絡んでくる大きな組織の登場があったりと、 物語は怒涛の展開を見せる。 思えばジョニー大倉の描かれ方は、 今でいう「ちょいワルおやじ」だったのか。 『小娘のミッドナイト』というタイトルとおり、 ジョニーの娘、視点から始まる物語は、 どうなるジョニー、どうするジョニー、が止まらないのだ。 物語はありきたりといえばありきたりのうえ、 荒唐無稽と取られるかもしれない。 だがあざとさのない、書き手の透き通るような心意気が乗り移ったそれは、 まっすぐとしか進まないからこそ、信念すら感じ取れる。 なんだか連想されるのは「宮崎アニメ」の劇画版、か。 キレイゴトじゃ物足りず、作り話なのに夢が足りないのもどこか悲しい。 つまるところ 当時、N.riverが主に読んでいた今でいうところのライトノベル、 コバルト文庫にある夢見がちな清潔感と、 いわゆる大人向け娯楽小説が持つヨゴレ感の混じり具合が絶妙な本書は、 だからして忘れがたく、 いや、読んだ桑原作品は、 今でも憧れの娯楽冒険小説と、記憶の中に輝き続ける。 ★ザッツ娯楽エンターテイメントです 映画を見ているようなテンポで 楽しめます ただし現在 諸般の理由から 桑原穣太郎作品を書店で見つけることは どうも難しい様子です もし読もうとした場合 もしかすると古本の方が 手に入りやすいかも |