www.central-fx-hyouban.com
御家人斬九郎/柴田錬三郎


自衛隊などと、闘う階級で思い出すのは
古来より荒事担当であった「武士」だよな、
とN.riverはひとり、うなずいていた。

ということで時代物小説(江戸)を読んだのは、おそらく二冊のみ。
そのうちの一冊が本書だ。
読むに至ったその理由は、テレビ放送されていたタイトルもそのまんま、
渡辺謙主演「御家人斬九郎」が大好きだったせいである。

松平斬九郎の家は、名の通り松平の血を引く名家だ。
だがすっかり落ちぶれて、お勤めの口もなけりゃ、
斬九郎は、代わりに罪人の首をはねる「片手業」で生計を立てている。
とはいえ、ぶっとい頸椎を一刀両断にするその腕はピカいち。
いわば腕っぷしは確かな、剣の達人なのである。
ただ貧乏なだけ。
食いもんに関しては贅沢したがるおっかあのせいで、貧乏なだけ。
けど、貧乏は何より勝るこの、やるせなさ。

そんな斬九郎が巻き込まれる厄介ごとと活躍を短編とし、
数篇が本書には、まとめられていた。
この一篇の短さが読みやすくて、またいい。
先にドラマを見ていたせいか、風情も言葉も戸惑うことはなかったのだから、
つまり時代劇を見たことがない、とのたまう方、以外、
物語についてゆけるのか、など構える必要もなし。

そして現代物を読みなれていたN.riverにとって、
ただただ唸らされたのは、作者、柴錬三郎の美しすぎる日本語だった。
落ち着いた語りに、時代ものだからこそある言い回しや単語の数々。
折り重なって目に浮かぶのは、礼儀と所作が美しい作法の国の間合いであり、
忘れたような、しかしDNAが覚えている妙に落ち着くそのテンポである。
ゆえに、読むだけで気持ちがすき、背筋が伸びるとはこれいかに。

そんな心持ちの中で斬九郎が活躍すれば、一挙一動にはどこか、
肌の温もりさえ感じてしまうほど。
斬九のダンナと、今、すれ違った。
などと、服を着たまま江戸時代へ紛れ込んでしまった、
ような感じさえ覚えてしまうほど、
シロウトでも氏の織り成す世界を、江戸時代を、
堪能できる一冊なのであった。


★あまりこまごました時代背景は
 出てこなかったと記憶しています
 全体が庶民の物語で
 人情話が主だったと思います
 綺麗どころとして斬九郎の相手に
 武家出身の芸者 つたきち姉さんが
 出てくるのもいい色とご紹介したく候