あとがき/えいえんのきゅうけい
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祖父母は神戸市三ノ宮に住んでいた。 毎月、遊びに行く楽しみは、 幼い自分にとってきらびやかな街になどない。 行くと買ってもらえた雑誌、『幼稚園』だった。 祖母に連れられ、商店街の書店へ向かう。 そこで挟み込まれたふろくに、ぱんぱん太った今月号を買ってもらい、 帰り、一昔前の酔っ払いの土産みたく十字に縛られたヒモをほどく。 それから祖母と一緒に畳の上に寝そべって、 一緒に読むのがなにより楽しみだった。 そんな祖母が、いやいやだったという記憶もない。 むしろ友達同士、互いに今月号の内容に胸躍らせていたように覚えている。 ふろくも大事で、 紙を切ったり折ったりして作る工作おもちゃは その工夫と仕上がりが、いつもnN.riverを驚かせ虜にした。 そうして一冊の雑誌で十二分に遊んで、潰す。 時が経って祖母は亡くなり、 叔母に雑誌を買ってもらうことになって後、 自分の小遣いで好きなタイトルを選ぶまでに様変わりはしたけれど、 現在までコンスタントに続く「読書」の原体験は、 祖母と一緒にあった幼少期だ、と思い出される。 ねっころがって、わくわくする。 かじりついて、へー、ほー、はぁ、と文字を追い 想像して、ああだこうだと自分の考えをぶつける。 この「知らない」という キラキラした無限。 飛びこむのだ。 今でも大好きな人と。 だから続く。 飲むように読むことの楽しさは、 そんな思い出と共に これからもあり続けると思う。
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