2017年 尼崎文学だらけ ~夏祭り~ 配布本 感想一覧 |
「イリエの情景」でお馴染みの、ずんばさんの冊子。手のひらサイズ、カラー刷りのイラストや4コマ漫画本。 表紙に描かれたキャラクターのつぶらなオメメはまっすぐこちらを見つめていて、媚びることなく、なんだかこちらも自然にほころんでしまうあんばい。トイレに置いておくにちょうどとおっしゃるけれど、そうやって人を和ませるならリビングがちょうどだ。 めくれば、特に「まいにちずんば1」にある4コマのオチがいい。 「……でーん!」 間がたまらない。ヨレることなく真っ直ぐこちらへ「でーん」を投げ込んでくる。 あーなるほど。おかげで気づかされるのは、そこに「今田ずんばあらず」氏の全て、は言い過ぎだとして、少なからずエッセンスが詰め込まれているな、ということだろう。 「でーん」 この間合いはなかなか出せないと思う。 とっても可愛らしいけれど、キモのすわった愛でるべき一冊。 ● 『エンドレス エンドレス』 /ぷよつー ● 「トイレのドアを開くと、そこはジャングルだった」 「トンネルを抜けると、そこは雪国だった」 文章の前と後ろがつながりません、メーデー! こういうの、やはりストレートに興味をそそられる。そんな書き出しで加速してゆくオハナシがこちら。 そうして異次元へ迷い込んだ主人公は、途中、出会った仲間たちと共に現実世界へ戻るべく奮闘を繰り広げる。ちょっとホラーじみていたり、時にアクションが混じり、そして推理を重ね、対決と淡い想いにドキドキさせられる。エグイところはない。全編安心して読める健全もの。 さらには本書、どこか懐かしい気持ちにも浸ることができた。そう言えば子供の頃、読んでわくわく胸躍らせていた物語って、こんなカタチをしていたよなぁ、と。つい気張ったり、うがったりし始めるだけに、こういう作風は貴重だと思う。 手垢のついていないとても純粋な一冊、と読む。 しかし、用を足してからジャングルでよかった。逆だとものすごくテンパるな……。 ● 『STRAY CAT』 /水無月 美伊 (HP @minazukimii) ● あまぶんカタログにあった、試し読み分に魅かれて購入。なにせ記載されていたのは、主人公がいきなりこんな会社、辞めてやるー、と啖呵切って飛び出してゆくシーンだったのだから。 男性社会で働く女性の主人公。しかも未婚ときたら何かと圧のかかるところが生きにくい昨今。だというのにこの主人公、かいくぐれるほど器用でもなく、我も強くない。もう、一大事だ。 悩み、葛藤し、堪えては潰れる中、まさに白馬の王子様がごとく登場する先輩がオアシスとなるのだけど、おかげで会社というリアルな側面と先輩の登場というファンタジー要素のせめぎ合いが、左右双方に降り切れているといわんばかり鮮烈だった。 これ、「激甘と激辛のダブルパンチ コク旨仕立て」とでも言うべきか。 こうしたところはオハナシならでは、堪能しまいでか。 同時に裏ストーリーとして、主人公と母親の密着した関係の闇もうかがえる。主人公の成育歴をもオハナシの考慮に入れるなら、おそらくオハナシのメインはこちらになるだろうな、と思えて仕方なかった。 やはり辛いと甘いが紙一重だ。 進む物語に没頭する一方で、「現実を踏まえて夢を見ること」をジンワリ、感じさせる一冊、と読む。 昭和中期の新潮文庫を思わせるフォントがレトロな本書。「麦酒」とかいて「びいる」とルビをふってやるのだ。それだけでもう、脳内に落ちる映像はセピア色となり、フィルムもカタカタ音を立てて回り始める。 押し付けがましさや、そうした類の派手さはない。切り取られた平凡な毎日の、それでいてどこか記憶に長らく残り続けてきたようなオハナシたちが並ぶ。だからして気になる誰か、拭い去れないいつかはのどに刺さった小骨がごとくで間違いなく、その違和感が登場人物たちを住まう世界から一歩、引かせているのを感じ取る。同時に、主人公たちの没入できない寒々しさが、行間から独特の静けさと共に放たれるのも感じた次第。それでも続く(続いているだろう)毎日が、静けさに残酷さを上乗せしている読後感が「うーむ」と喉を震わせた。 いつか、どこか、誰かにこのわだかまりを拭われる日が来るのか。 分かり合う、信頼し合う、そんなことについて「感じさせる」一冊、と読む。 ファンタジーや歪な日常モノが多い中、ゴリゴリのサスペンスを見つけて飛び付いた。しかも装丁がカッコイ。ジャケ買い要素も高いうえに、超お手頃価格なこのシリーズは、謎の事件と女主人公の身に起きる出来事、それが男主人公の経歴とも絡んでやがて事件の真相へ肉迫してゆく筋書き。 拳銃の常時装備と個人の判断による発砲が許された警察組織に属する女主人公、というだけでもうハードボイルド感満点。血沸き肉躍る。しかも今後、撃ちまくる、かどうかは別としてもドンパチありそうな気配濃厚で、鼻息も荒くなる。少々サイコな事件の作り込み、その真相(結末)もさることながら、両主人公の関係も気になったりして目が離せない。ともかくあちらへこちらへ興味が「飛んで飛んで飛んで飛んで、回って回って回って回る~」のは、まだ完結していないからなのだろう。 資料の読み込み等、仕込みに設定が大変そうだとお見受けするも、ここは気を抜かず続編をお願いしたい、なんて今後、期待するほかない一冊、と読む。 ● 『巨人よ、穴を埋めよ』 /そらとぶさかな ● 夜ごと出来る巨大な穴を、罪人たちは日々、埋める。そこへ現れた主人公、少女の視点で紡がれる物語。 さほど場面は多くない。穴を埋める、家へ帰る。穴が出来る。埋めて家へ帰る。その単調な繰り返しだ。だが繰り返す中で事実は少しずつ明かされてゆき、異変は顕著となってゆく。そうして迎えたクライマックスにNRは号泣した。実はよくわからないのだけど、ものすごく「もっていかれた」。抗えない、切実で切ない、暴力的で、しかしながら美しい嵐の夜の出来事には、圧倒された。このシーンの勢いのあるドラマチックも極まった筆遣いは、お気に入りである。勝手に脳内でBGMまで流したし。 謝って済むなら警察いらん、とかなんとか言うけれど、罪は後悔するほど深くなり、埋めきれず誰もを砂に、土へ還してしまうのかもしれない。 純文学のようでファンタジーのようで、つまりは壮大なエンタメともとれる一冊、と読む。 ● 『幻石』 / ひざのうらはやお (かーびぃのメモ帳) ● 著者の創造した4つの石にまつわるオハナシ。その舞台もジャンルも様々で、どれも25Pほどの短編ながら、文字に起こされた部分の前後をくっきりと想像させる作り込みが秀逸だ。いわゆる「お題」に沿って書かれた短編集としても読めるのではないか、とも感じて止まない。そのためアラカルトとしてあれもこれも楽しみたい、というよくばりさんにはもってこいかも。 即物的にハイテンションな落下から始まる本書の、概念的に静寂の中へ溶け込んでゆく終りが意図的であるのなら、石は「意思」のメタファなのかもしれないと邪推して、バラバラなオハナシにひとつ、生きて死ぬまでを想像してみたり。 ともかく手練れの繰り広げる色とりどりへ、その気になって没入すべく一冊、と読む。 そうして秘かなシカケに気づけたなら、なお面白み倍増とか。とにかく凝りに凝りまくったところを探るのがよし。 失敗。軽んじられる存在。将来に対する漠然とした不安。読めば読むほど手を変え品を変え繰り返されるテーマの波状攻撃が、著者の内側を暴露してゆく。なんだかこのままこの人、ゆき倒れるんじゃなかろうか。心配になって来るのだけど、おっとどっこい、そんな著者から手渡しで本を受け取ったのだから大丈夫だ。 そんな中でも唯一、はっきりとした希望が描かれている「冬に桜を売る少女」には泣かされた。それまでもそれ以降も、かぶった布団を噛みながら震えるような苦悩が続く中で、このオハナシだけはふい、と訪れた閃きに主人公の視野が大きく転換するのである。この時のすうっと開けて行くような解放感と、覚えた身軽さが鮮烈で清々しかった。その清々しさに涙腺も崩壊した模様。 悶える時期に悶えるのは健全。 そうしてサバイバルした時、同じ思いにあえぐ後続の希望の星となる。 そんな後続へ向けたその実、勇気の一冊、と読む。 ● 『こんにゃくの角で戦う大統領』 /ひざのうらはやお (かーびぃのメモ帳) ● なんて「ヌーディ」な本なんだ。初見でそう思った。 製本とくればスキを作らず精密に狙い通りの雰囲気を作り込み、いわばずんずん化粧をほどこして体裁を作り上げて行くものだというのに、この飾り気のなさはなんだ。パンツくらいはけよ、のいわば素っ裸ではなかろうかと感じた所存。 つまりここに書かれていることが格好つけて体裁保ったものであるはずもなく、これは読まねば、ちょうど試し読みに挙げられていた句も気に入ったことだし、ということで毟り取って来た1冊。 大変遠回りな、言いかえるなら忘れ難き己が後悔を相手に投影させ、それをさらに第三者視点で描いたようなオハナシだと読む。そうするわけは直接、言及できない理由があるからで、それこそが著者の実体験なのだろうと察する。というのも、いつもなら書くハズだろう作り込まれた設定についてが、いわば肝心な部分の説明がないのだから、言いたくなく、言えないと感じざるを得ない。 におわせるだけの世界へ迷い込めば、ヌーディ? いや、ひと肌ちょうどの悔恨に寄り添える一冊、と読む。 誰にだって人生の戻れない分岐点はあるものさ。 決して装丁に惑わされることなかれ。 ★著者の皆様へ 無料配本は対象外とさせていただきました。 転載は商用も含みOKです。ひと声おかけ頂けるとのぞきにゆく楽しみが増え、なおOKです リンクの追加、削除がありましたらお申し出下さい。 |