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ACTion 25 『巡る世界 2』



 と、入れ替り表示は灯る。部下が表で入室許可を求めていた。応じればプラットボードを携え部下は部屋へと現れる。今しがた極Yより通信があったと告げてプラットボード上へヒモ人形を立ち上げると、手際よくシャッフルへ向けなおした。
 踊りだせば同時に吐き出されてくる訳文は、与えたもう一つの座標が『デフ6』エリア、ギルド商人の非対面式店舗であったことを、すでにもぬけのカラだったことを知らせる。さらに店舗内の留守録映像に対象が映っていたことを、ふまえて送信ラインであるギルドネットを辿り、惑星『アーツェ』へ向かっていることを告げた。ヒモ人形の動きはそこで止まり、部下はシャッフルへ顔を上げる。
『アーツェ、ですか』
 呟くように繰り返して言った。シャッフルもつられて口を開くと、仮想デスクのコンソールを弾き、おおよそなら把握している『アーツェ』の、正確な位置確認にとりかかる。
『ここからOp・1までの距離と、あまり変わらんな』
『彼らに任せるおつもりですか?』
『フェイオン以上の惨事は起きんよ』
 部下の問いかけは素早く、シャッフルは十分承知していると、言ってきかせた。
『ですが我々の船は、彼らよりアーツェに遥かに近い位置で待機しています……』
 食い下がるその顔へ目をやる。
『対象を確保することは重要だ。だが極Yを使うのは、彼らから動話を剥奪するためでもある。それが上の考えなら従うのが、我々の役割だ。乗り込んで彼らから手柄を奪うわけには、いかん』
 一呼吸おいた。そうして知らぬうちに詰まっていた眉間を解いてゆく。
『ただ』
 言えば、不満げだった部下の目は、次の言葉を探るように動く。
『その極Yが対象を逃し続ければ、確かに本末転倒ということにはなるがな』
 見て取り、シャッフルは満を持したように言ってのけた。
『すでに一個分隊の準備は整っていいる状態です』
 この成り行きを待っていたらしい部下は、段取りがいい。
 シャッフルはそんな部下の目をチラリ、のぞき込む。のぞき込んで、向かえば上の指示に背くこととなると考えた。だからこそもう一度、勝負をかけるか、と考え、そしておそらくこれが最後のチャンスでもあるだろうと感じ取ってみる。 
『確か、アーツェには連邦軍基地の跡地が残されていたな』
 やおら仰いだ宙へ向かって吐き出した。
『視察、されますか?』
 などと、部下の切り返しは絶妙だ。
『そうだな。ここも一段落つきつつある。たまには貴重な資源のすす払いにつとめるのも悪くない』
 あえて言い放ち、シャッフルは打って変わってその表情を引き締めた。
『分隊員には必ず絶縁スーツを着用させろ。それから実弾の携帯は認めん。実験体は生きたままで確保したい。もちろん極Yとハチあわせた場合、我々は援護に回る。だが彼らがしくじりそうな時は我々の出番だ。遠慮はするな。後の責任はわたしが取る。確保につとめろ』
 聞き終えた部下が、早速にも制服の胸元からケーブルを引き出していた。
『了解しました』
 ケーブルの先についたパッチをこめかみへ貼り付ける。骨振動型のそれで声を拾いながら、別れてぶら下がるケーブル途中のマイクを使い、通信を飛ばした。二言三言で、あいだ逸らしていた視線をシャッフルへ戻す。
『六百セコンド以降でしたら、いつでも出発可能です』
『分かった』
 ならば視察で席をはず件を、うまくクレッシェへ伝えなければならない。出来るかどうか疑問は残ったが、やるしかないとシャッフルは階級章を胸の光学バーコードへ転写させた。埋まっていた椅子から腰を上げる。前で部下が静かに頭を下げていった。


 その六百セコンド後、巡航艇は『フェイオン』の傍らに停泊する白い船より、離脱してゆく。そこにシャッフルたちと、何知ることなく『アーツェ』で過ごす誰もの運命もまた乗せて。


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