解体屋外伝/いとうせいこう
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どピンクの装丁が、ひときわ目を引いていた本書。 これもまたサブカルか? しかも初作にして『外伝』とはいかに。 わけはこうである。 洗脳集団ウオッシャーと、洗脳外しのプロ、解体屋(デプログラマー)が 壮絶な戦いを経たあと始まるのが、この『解体屋外伝』だ。 さてN.riverの中に画期的とこの作品が残っているわけは、 洗脳されてゆく過程、思考のすり替えや、 それを撃破してゆく過程、思考の検証が、 文字ゆえ可能な描写として展開されている点である。 おそらく映画でやろうとすれば、静止画にモノローグの嵐になるのではなかろうか。 でなければ、心象を映像化した映画「ドクターパルナサスの鏡」ばりに ぶっとんだシーンの連続になってしまうのでは、と予測する。 しかし主観を延々つづることで読み手へ変化を伝える小説形式には、違和感がなかった。 ウオッシャーとの戦いに敗れた解体屋が、破壊された自我を取り戻してゆく様や、 埋め込まれたトラウマを探し出す場面、 最後、ウオッシャーの親玉と対峙する、「心の中」対「心の中」の対決は圧巻で、、 援軍乏しい領域だからこそ、もし自分が、 と思えばチビりそうになりさえする臨場感である。 またそうするために心へ入る、つまり相手の脳内へジャックインするため必至となる、 サイバーパンクな要素も目玉だ。 だからして当時、ジャパニメーションのきっかけを作った 士郎正宗氏の漫画『攻殻機動隊』 ですっかりソチラへ傾倒していたN.riverにとって 本書がどストライクだったことは、言うまでもない。 ちなみに渡辺謙氏も出演して話題になった『インセプション』も この手が絡んでいて大好物である。 さておき、なんだかマニアなにおいが立ち込めて来たが、 かけられる洗脳、暗示を常に疑い、その外へ外へ向かう解体屋は、 思い込みを転換させるため、結構なギャグを連発する。 その必死さが面白いんだか悲惨なんだか、分からない笑いをさそい、 コミカルな面も多く堅苦しくない。 そうして読んでいるうちに、こちらも実はすでになんらか洗脳されているのでは、 と不安になったり、 ラストが導く驚愕の事実に、いや、洗脳されててもいいのさ、と ほっとできる辺り、 飛び切りのエンターテイメントだなぁ、と二度も、三度も読み返した作品であった。 (これを書くに当たってググったとろろ、同署者の書『ワールズエンドガーデン』にも解体屋は出て来ており、そのスピンオフ的作品らしい。しかし『ワールズ~』は読んだが、途中でやめたのか記憶にないから、どうしようもない) ★『心と意識』を扱うため 心理学的な知識が少しでもあった方が わかりよいかもしれません また『情』に訴えるよりも 理論で構成された物語展開という印象が強く 感動したい場合は 期待外れになるやもしれません SF好きの方には大いにおすすめします |