www.central-fx-hyouban.com
今夜すべてのバーで/中島らも


宮本氏が案外、近所の人だと分かった。
さらに近所に実家がある、と知れたのは
今は亡き中島らも氏である。
ということで、地元なら読んでおかねば!
手に取ったのが本書であった。

……というか、いつものながらそのチョイス、単純だぞ、おい。

もとい。
一言で片づけるとするなら、『アル中の話』である。
暴力をふるうわけでも、誰かをだますわけでもない。
それがどういう未来につながっているのか知りながら、
自らをひたすら痛めつける。
ただひたすら飲むことに憑りつかれた主人公の物語だ。

分かっていてもやめられない。
どうにも中毒症状とは、主観を歪められた状態らしい。
そんな中毒患者が住んでいるのは、一種のファンタジーの世界で、
しかもそこには皆と同じ場所へ戻るための帰り道が、用意されていない。
踏み込んだが最後、といえばおどろおどろしいが、
それらが中島氏独特のユーモアをまじえ、
まさに悲喜こもごも、つづられている。

いわずもがな、
物語はおおいに中島氏の体験に基づいていると思われる。
そんな氏が飲み出したきっかけは、
面白い小説をかかねば、というプレッシャーを蹴飛ばすための起爆剤だった
とかなんとか。

ペルソナ(仮面)なるものを人は社会で幾つも使い分け、生活している。
だが極端に追い詰められ、手持ちの仮面が尽きてしまったなら、
酒の力を借りることで新たな仮面をかぶり、
思うままのファンタジーへ逃避、
現実において必要な力を発揮できるだけの自己暗示をかける事も手だろう。
だがどうやらその代償は大きいらしい。
なんだか今、書きながら、
悪魔との契約、なんて言葉を思い出したりするN.riverなのだった。

静かに破滅してゆく。
人の弱さと、
けれど誰しも強くないかも、
と思わせる危うさに、
いざ、拒めない切なさが、
熱燗よろしく、鼻の辺りにふん、と残る作品だったなぁ、
とN.riverは思い出すのである。


★吉川栄治賞新人賞受賞作品
  だそうです
 下戸でも飲めるクチでも
 薬物中毒の世界はまた別で
 物語にのめり込むことはできる
 と思います
 むしろやめられない立場が
 理解できたりするかも