この作品は、フィクションであり、登場する個人名、団体名は全て架空のものです。
また、解説されている医療行為等に関しましては、事実と異なる場合があることをご了承ください




見えるところ 2

                         





-2.発覚-

 昼ごはんは、回転寿司が2皿だけだった。
 だいたい店までの距離を暑さの中、歩くだけで疲労困憊で、食べる気になれなかったのだ。
 確かに胃の腑は空腹を訴えていたが、相変わらずの便秘にその下へモノが落ちる気配がなかったためである。これがダイエットにつながるなら、でばった下腹もすこしは引っ込むだろうとさえ呑気に考えていた。
 そしてこれが、最後の「日常」になることとなる。

 ようやく寝付けた翌朝、目覚めた理由は腹痛だった。
 しかしながらそれはいわゆるキリキリする痛みではない。
 今にも裂けそうな張りによる苦しさだ。
 ガスでも尿でも出せるものがあるなら出そうと、手洗いに向かった。
 月のモノが始まっている。
 そのための下腹部の張りもあるのだと、理解した。
 それにしても尋常ではない。
 その後、ギリギリと痛みも生じはじめる。
 何が起こっているのか、自分の体ながらさっぱり理解できなかった。
 手洗いを出て、ただ横になる。
 カンカンに張った腹のせいで体を伸ばすことができず、横になり丸まった。
 腹部の圧力に横隔膜が下がる余地すらなくなり、息がしづらい。
 いや、できないと、このままだと腹が裂けるに違いないと恐怖さえ感じた。
 初めて、家族に痛み止めの薬を買ってきてもらうよう頼む。
 服薬後、確かに痛みは治まるが、体のダルさはもう立ち上がれないほどになっていた。そこに腹の張りが加われば、筋力の問題ではなく、稼動範囲の制限より動くことすらままならなくなる。
 近隣のかかりつけの病院へ向かうため、どうしても必要だった着替え。そのために腕を上げることすら全身全霊での動作だったことは、異常事態そのものだった。
 支えられて病院に到着。
 施行された緊急の採血で、白血球が限界値まで上昇していることが判明した。つまるところ内臓のいずれかで、激しい炎症が起こっていのだと説明を受ける。
 対処して点滴を施され、少しは軽くなった体。
 心当たりは? と聞かれて、私はこう答えていた。
「婦人科を紹介していただけないでしょうか? そちらにかかってみます」

 近所に大きな総合病院があったことは、ラッキーだったろう。
 初めての受診に抵抗がなかったかといわれれば、それは否めない。だが背に腹はかえられなかった。そうして知らされた結果はのっぴきならないものだった。
 エコーに映った影は、10センチ足らず。
 通常が親指の頭ほどの大きさしかない卵巣ならば、それは異常な大きさだった。
 そしてその大きさは放置すれば破裂する可能性をはらんでおり、早急の手術が必要だと告げられる。
 病名は子宮内膜症、卵巣のう腫。
 拡大されたエコー写真に定規を当てながら説明する医師の横顔と、自分のものとは思えないその影像をぼんやりながめながら、続く説明に得る妙に腑に落ちた感覚は半ば安堵に近かった。体調不良の理由が根性論ではなく、物理的な原因を伴った機能不全だったのだと知ることで、何か漠然としない不安が解消されたような気さえしていた。
 手術のために必要なCTの造影撮影を、緊急で施行してもらえる他院にて予約。
 帰宅の途に悲壮感がなかったのは、今でも謎である。

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